キラキラ輝くトゥールビヨンのミステリアスな仕掛けとは？【超弩級 複雑腕時計図鑑】

難解極まりない超複雑な機械式時計の仕組みを“優しく”解説する『超弩級 複雑腕時計図鑑』がMEN’S EX特別編集によって発売に。ここでは、その中身をピックアップしてご紹介する。

ダイヤルでパーツが宙に舞うかつてない浮遊感を表現

ダイヤルに設置された香箱や歯車、そしてトゥールビヨンは、まるで重力に逆らって浮遊しているかのよう。その不思議な様を様々な角度から見せるため、たっぷりとした高さのあるボックス型のサファイアクリスタルが、ケースに統合されている。搭載するCal.UN-176は、2018年に誕生。その翌年には、新たなダイヤル素材が与えられた4モデルが再登場した。これは、その中の1つである。光に煌めくダイヤルと香箱上のプレートは、最も重い貴金属オスミウムの合金製。そのプレートに歯車やブリッジを取り付けるには、極めて慎重な作業が要求される。

ムーブメントの詳細をユリス・ナルダンは明らかにしていないが、ダイヤル自体を地板とし、その表と裏とで輪列を構成していると推察できる。3時位置にはリューズ機構を配し、その下には7日間のパワーリザーブ計が単独で鎮座する。9時位置側には主輪列が並ぶが、その歯車の構造はかなり奇妙である。3つ並ぶうち、下2つは異なるギア比の歯車が重なり、さらに中央側は1つ、下側は2つの遊星歯車を内側に収めているからだ。

これら主輪列による駆動伝達は、ダイヤルからは突然途絶え、フライングトゥールビヨンが単独で動いているように見える。そのテンプには、2015年に発表されたシリコン製のユリス・アンカーが備わる。これはコンスタントフォース機構の1つ。ユリス・アンカーは、同じくシリコン製のアンクルにも接合され、そこからV字に伸びる板バネによって脱進時のトルクを均一にする。かつてない発想のコンスタントフォース機構で、ユリス・ナルダンは時計精度を革新した。それを備えたトゥールビヨンの受け石は、人工ルビー。メタリックなダイヤル面に彩りを添えている。

時計界で先駆を成したシリコン技術と、長い歴史を持つマニュファクチュールの伝統的な時計製作技術を惜しみなく注ぎ、パーツが宙に舞う時計を生み出した。

 

　Point 1　

高さのあるボックス型のサファイアクリスタル

パーツが宙に舞うダイヤルというステージを、より際立たせるのが、サイドからも中を見せるサファイアクリスタル。その形状を名付けて、ウルトラボックス型。サイドからも歪んで見えないよう、表と裏とで異なる曲面が造作されている。この開発には数ヶ月を要した。

　Point 2　

パワーリザーブ計が単独で鎮座

12時位置にあるダイヤルのほぼ半分近い直径をもつ巨大な香箱は、7日間のロングパワーリザーブをかなえる。4時位置にあるのが、そのパワーリザーブ計。針を動かす仕組みは、ダイヤル側からは完全に隠されていて、単独で動いて残量を示しているように見える。

　Point 3　

シリコン製のユリス・アンカー

テンプに重なる紫色のパーツが、ユリス・アンカー。青いシリコン製アンクルの両爪にも接合され、そこから伸びる板バネが均一な力での脱進を実現する。他社のコンスタントフォースのように香箱からの駆動力ではなく、脱進時の力を制御するという発想が、斬新。